2015.9.19(土)~9.28(月)10:00~17:00
参加アーティスト:熊谷綾乃・谷崎桃子・伊藤蓮美・今岡要子・高須賀活良
江戸時代から備中地域の産業を支え、時代と共に消え去っていった「備中綿」。本プロジェクトはこの「備中綿」の持つ歴史や「綿」という素材を通して玉島地域を見つめなおす試みです。綿花から採られる「わた」は収穫される前は「棉」と書かれ、種を取り除くという人の手を加えることにより「綿」となります。そのプロセスを素材から作品へと向かう制作過程と重ね「木から糸へ」という副題を掲げました。本プロジェクトでは、5人の若いアーティストが玉島で滞在制作をし「備中綿」という素材と向かい合います。その成果として「備中綿」を起点に生まれた作品を展示し、その魅力や玉島のあり方を考えるきっかけにしたいと思います。
会期中の様子
岡山県主催事業「備中アートブリッジ」が8月〜11月にかけて4ヶ月に渡り遊美工房と一鱗で実施されました。前半の「遊美工房AIR_夏」では、東京から5人の若いアーティストが玉島に滞在し、江戸時代から備中地域の産業を支えた「備中綿」という素材と向き合いました。玉島の魅力を見つめなおすきっかけになってほしいと、その成果が展覧会で発表されました。
絵画、インスタレーションを制作した谷崎さんは、「密に玉島の人とふれあいながら制作し、東京で制作をしていると希薄になりがちな美術を生業としていない人とのリアルな会話ができました。また、住んでいる神奈川で、よし、海にいくぞ!と構えて行って見ていた自然の景色が、玉島では当たり前のように生活のなかに存在しているのを知り、今まで見てきた星や夜景、海も、違う空気と温度を持ちそこに在りました。ひとつの角度からしか見ていなかった景色に違う視点を感じ、自然と関係を持つ人のありかたをもっと描きたいと思いました。遊美工房は自然光が入り、日本人に愛される空間により、人に身近に感じてもらえる展示ができたと思います」と話されていました。
「玉島の方とお話をするうち玉島地域のリアルな今と、土地に息づく歴史と両方に触れることができ、フィールドワークの価値に改めて気づかされた」と話す伊藤さんは、備中綿で美しいストールを制作しました。「備中綿の使い道として、最もオーソドックスな展開をすることで備中綿を肌で感じてもらえるような作品を制作できたと実感できました。日本人の郷愁を呼び起こすような空間にアートが入りこむことのアンバランスさが、見知らぬ地で滞在制作をした私達を投影しているようで面白く、貴重な経験となりました」と、それぞれに玉島で得られたものがあったようです。
今回のプロジェクト代表でもある熊谷さんは以下のようなメッセージを届けてくれました。「今回玉島で見た植物と、私の地元の長野で見た高山植物を掛け合わした植物を制作しました。滞在をして制作をする今回の企画で、大事にしたいと考えたのは、玉島を見ることです。備中綿を入り口に玉島の歴史を見ながら、蔵屋敷や昔の商店街、お茶の文化を見て、歴史のある玉島の魅力を感じると同時に、そこに暮らす人々の魅力を強く感じ、玉島の方々にも針を持ち、私の作品に綿の糸を指して頂きました。
デザインから美術から、アプローチの違う作家5人が備中綿をキーワードに、それぞれが玉島という環境にどう対応していくのか。五つの玉島への視点の距離感が現れ、遊美工房という日本家屋のなかに納められました。備中綿という一つの材料が皆んなの入り口であり終点になり、他に無い展示が出来たと思います。
玉島の人たちは、東京から来た私たちにとても良くしてくれ、玉島の一部としてくれました。この土地では何が美味しいのか、何が育つのか、何をして遊ぶのか、歴史の他に今の玉島の魅力を伝えていただきました。玉島を教えてくださった人々が私にとっては最大の魅力的な玉島です。大変感謝しています。ありがとうございました」。
2ヶ月間、様々な体験と経験をされた5人のアーティスト。本当にお疲れ様でした!
reported by テハ design unit
★参加アーティスト
熊谷綾乃 Ayano Kumagai テキスタイル
1990年 長野生まれ。
2014年東京造形大学卒業。染めた布に編み縫いすることで生まれる、平面と立体が合わさる新しいテキスタイル表現を探る。植物などの自然観察から得られる生きた力に感化され、現代の人に見る時間を得てもらうことを目的とし制作活動を行う。
谷崎桃子 Momoko Tanizaki 絵画・インスタレーション
1991年東京生まれ。
2014年東京造形大学卒業。絵画、服を媒体とした美術作品を制作する。人が繋がりを持つことでも孕む、ネガティブな問題を受け入れた上で、それでも愛し愛されることを肯定的に捉え表現する。
伊藤蓮美 Hasumi Ito テキスタイル
1990年 長野生まれ。
2014年東京造形大学卒業。紬織物を新たなテキスタイル表現として取り入れることをテーマとし制作活動を行う。長野県に伝わる信州袖を中心にフィールドワークを通して調査を行い、伝統的な手法を取り入れた新たな形のテキスタイル表現の可能性を探る。
今岡要子 Youko Imaoka 彫刻
1990年 大阪生まれ。
2014年東京造形大学卒業。人体をモチーフとした作品を中心に制作活動を行う。グルーガンやワックスと糸など、媒体となる空間に感化されやすく可変的な素材を取り入れることによって、人の弱さを含んだ人体彫刻を追及し表現する。
高須賀活良 Katura Takasuka ファイバーアート
1986年東京生まれ。
2011年東京造形大学卒業。モノづくりの始まりは「土」からであるというコンセプトのもと、大学院では原始布研究を行う。現在、国内外で作品発表の他、テキスタイル専門のデザインユニット「NEGENTROPY」のデザイナー、東京造形大学非常勤講師としても活動。